2018年4月11日水曜日

ごきげんさん 2018.4.11.

「光の経営」から 3)遊郭遊女屋の女主人だった過去生からの学び  四国の小藩の武士の娘に生まれた人生です。  外では真面目で笑うことのない父と物静かな母、背が高い優しい兄との4人家族でした。貧しいけれど、友だちたちと野山を駆けまわる元気いっぱいな女の子でした。  15才の時、藩が突然、密輸の疑いで取り潰しになりました。父は上司の密告で切腹に、母も後を追って自刀しました。母の血に染まった無念の顔が忘れられません。親戚たちは連座を恐れて誰も来てくれません。兄とふたりで母を葬りました。その兄も役人たちにお城へ連れて行かれて斬首されてしまいました。翌日、ひとり残った自分も役人たちに捕らえられてしまい、縛られたまま船に乗せられました。江戸へ送られた自分は、藩を潰した極悪人の娘と蔑まれて遊郭に売られました。  父はそんな人ではない。何かの間違いだ。  訴えようにも、もう誰も知っている人はいません。遊郭に着いた翌日には無理矢理に客を取らされました。悲しみや悔しさよりも復讐心でいっぱいです。父母兄の敵はいつか必ず自分が取ると決心しました。  貧しい武士でしたが、父母は武家の教養と躾けをしっかりと身につけさせてくれていたので、すぐに和歌に秀でた評判の太夫になりました。復讐心が客好みの笑顔も愛想も作りだしてくれます。やがて客も地位のある武士や裕福な商人ばかりになり、閨の中で様々な裏情報を聴き出せるようになりました。  和歌を通じて大奥の重鎮たちや幕閣の奥方たちとも通じ合うようになると、まず父の冤罪に関わった上司たちに同様の冤罪をなすりつけて地獄へ葬り去ってやりました。もちろんその一族郎党ことごとくにも生き地獄を味わわせやりました。  これで終わった。あの世の父母兄の元へ行こう・・・  いつかこの復讐心を晴らすことだけを念じてこれまで生きてきました。もう思い残すことはないはずでした。でもなぜか死ぬ気にはなれません。  房中術で極楽往生している老中の寝顔を蔑みながら、気づきました。 「私はこの世を動かす力を手に入れた」  馴染みとなった裕福な商人たちから大金を巻き上げてやり自由の身を得た後も、情報収集と人脈強化のために客を取り続けました。もう復讐心も怒りや悲しみもありません。毎夜、閨の中で繰り広げられるこの世の支配ゲームが楽しくてしかたありません。  陰口を叩いた商家を即刻、叩き潰すことなど簡単なことでした。  気に障った外様大名の藩を幕府重役との閨話に潜ませた讒言で取り潰したこともありました。  江戸に来たオランダ人や中国人たちとも閨を共にして、諸外国の情報にも詳しくなりました。特に密輸ルートの情報を得てからは、日本中の商家の生殺与奪の権利を手に入れたように感じました。  恨みは晴らした。金も権力も手に入れた。情報の前には将軍でさえひれ伏す有様だ。人生で最も幸せな場面はこれでした。  40才の時には、幕閣を動かし新しい遊郭を作らせて大名主となっていました。和歌を愛する好き者のサロンのようですが、内実は裏幕府の様相を呈していました。もう誰も逆らう者などこの世にいません。かといって金にも権力にも興味はなく、ただこの世を動かすゲームに興じるのが楽しいだけでした。勝手気ままに賞罰や人事を決めたわけではなく、自分なりの正義のルールを持っていました。  そしていつしかその正義のルールに合致できる権力者と商人たちが秘密の組織を形作り、自分はその中心に立っていました。京の帝の勅使でさえ、夜は必ず挨拶に訪れてきます。帝の歌には、裏の情報源として大切に思われている気持ちが滲み出ていて、この時はさすがに感激を覚えました。帝からは門外不出の香料をいただき、返礼には南蛮渡来の品物を多数贈りました。  60才になって引退しようとしましたが、秘密の組織を引き継げる有力者が見つかりません。情報と権力の力があまりに強くなりすぎていて、我欲自利の強かった者たちはひとり残らず抹殺されていました。  自分の正義のルールが、まるで宗教教義のように絶対になってしまっていたことに気づいても、もう後戻りできないところまで来ていて、結局、83才で病死するまで自分が中心に立って正義をこの世に示し続けました。  死の床に臥しながら、人生を振り返りました。40才からの40年あまりに数え切れないくらい何度も暗殺や呪詛を企てられたことが最初に思い浮かびました。 「そんなに私は嫌われ、憎まれていたのだろうか?」「私は本当の極悪人だったのだろうか?」  死ぬとわかると、それまでまわりに詰めていた人たちがひとり抜け、ふたり抜けていき、最後には誰もいなくなっていましたが、別に悲しいとも悔しいとも思いませんでした。それも自分の正義のルールのひとつだったからです。 「今頃、集まって私の後釜を決めているんだな。まぁ誰がなっても同じことよ。いっそこの世諸共あの世へ道連れにしてやろうかしらね」  これまで溜め込んできた秘密情報が公表され、大パニックの末に血で血を洗う戦争が永遠と続く未来のビジョンが脳裏をかすめていきました。 「たんまりと溜め込んでおいた金の秘密の隠し場所も、誰にも教えずにあの世へ持って行ってしまおうかね。それとも・・・」  若かった頃、この世を動かすゲームの楽しさに目覚めた時の高揚感が蘇ってきたのがおかしくて、思わず咳き込んでしまいました。 「もうすぐ死んで地獄へ堕ちるのに。私ったらやっぱり根っからの大悪党だね」 「父母兄にはあの世で会えないけれど、敵はちゃんと取ったから喜んでくれているよね」 「まぁこの世の行く末は、この世に残る人たちに決めてもらいましょう。もう私が出る幕ではないわね」 (続く)