2018年5月7日月曜日

ごきげんさん 2018.5.7.

(つづき) 「海賊たちに私の学問の利用方法を提案します。捕虜との通訳だけではもったいないと話します。例えば、乗客の家族への身代金の脅迫状を書くのはどうだ?とこちらから提案してやります。どうせ海賊たちは行き当たりばったりで目の前の金しか見えていません。  私の武器は学問です。海賊たちよりは数段、頭脳明晰です。海賊たちの頭も腕力と船の操舵力だけは優れていますが、頭脳はさっぱりなのはすぐに見抜けました。この海賊たちの頭脳となれれば、海賊たちに無茶なことはされないでしょう。もし海賊たちが捕まっても、殺すと脅されて仕方なしにやったことにしてしまいます。どうせ海賊たちは死罪ですから死人に口なしです。  生き抜こうと決心したら不思議と智慧が回ってきます。  ある商船会社とは秘密裏に安全を保証する契約を結びました。もちろんたんまりと契約金はいただきましたが。  これまでの海賊の腕力勝負の戦いから、近代兵器を買い入れて海賊船を武装化するように提案しました。すると商船や輸送船は海賊船を見ただけで震え上がり無条件降伏してしまうようになりました。おかげで海賊たちの負傷者や死者が格段に減り、私は海賊たちの家族からとても感謝され大切されるようになりました。  他の海賊たちの動向を軍隊に内通して、拮抗する海賊たちの勢力をそぎ落としたこともありました。軍隊に手柄を差し出す代わりに、こちらを目こぼししていただく裏の相互協力です。おかげで軍隊トップの将官たちとの闇の繋がりが持てました。  将官たちはさすがにしたたかです。軍や政治の中での闇の仕事を海賊に依頼してくるようにもありました。暗殺、拉致、強迫・・・もちろん多額の報酬付きです。  そんなことまでしていいのか? なんて思慮する余裕はありませんでした。  生き残るためなら何でもやる!  その強い信念が私の勇気と立ち回りの原動力でした。  もちろん海賊の頭の立場を凌駕することだけは決してしないように心がけました。頭のひと言だけで私の首が飛ぶことは重々承知していましたから。  それでも十年近くはそんな生活を続けていたでしょうか。ある時、軍のトップから海賊たちには内密の依頼が舞い込みました。それは海賊を抜けて軍の秘密組織に入らないかとの誘いでした。ちょうど海賊の頭が世代交代する時期でしたので、私はこのチャンスを逃しませんでした。  海賊たちが跡目争いをするように前々から仕組んでいたのが役立ちました。海賊たちの中に私を慕ってくれている隠れ一派が出来上がっていましたので、私はその一派を連れて軍へと入りました。もちろん軍を100%信用はしていませんので、海賊と軍の二重スパイのような緊張関係をあえて保ったままにしておきました。そのおかげで私は軍からも海賊からも貿易商からもむやみに手出しできない存在になれました。  これも生き残るためです。生き残るためなら何でもやる! それが私でした」  場面が消えて漆黒の闇だけが静かにそこにありました。闇がゆっくりと息を吐くように次の場面を見せてきました。それは父の船を沈めた大嵐が吹く前日の朝でした。 (つづく)